個人的に感動した物語を勝手に選んでみた!その1〜「みかづき」森絵都〜
今回は、本が好きで小説などに問わず様々なジャンルの本を貪っている中の人が、個人的に感動した物語を3つ紹介いたします。
(シリーズであと2記事公開しようと思ってますー )
「みかづき」森絵都(著)
昭和36年頃の学習塾の家族経営を描いた物語。
主人公の大島吾郎は、教員免許はないが子どもたちに勉強を教えることが好きで、小学校の用務員時代に子どもたちに有志で勉強を教えていた。
その生徒であった赤坂蕗子の母でシングルマザーだった赤坂千明が大島吾郎の「教える」才能に惚れ込んで、塾をやらないかという誘いをする。
「私、学校教育が太陽だとしたら、塾は月のような存在になると思うんです」
この言葉によって大島吾郎はみるみるうちに千明の誘いを飲み、学校を退職して学習塾を経営氏はじめた。
当時は、塾という言葉自体もほとんど知られておらず、勉強教室と呼ばれていたぐらい知られていない存在だった。
この決断が大島吾郎の塾人生の出発になる。
やがて二人は結婚し、娘も誕生し3人の娘の父になる。
ベビーブームや高度経済成長の時流に乗り塾も急速に成長したり、
今のご時世ではない、学校と塾との対立など塾が学校教育に受け入れられていない時代ならではの苦悩を抱えたりしながら塾経営をする姿を描いている。
また、一郎は金銭的な問題から塾に通えない子どもたちにクレシェンドという塾を立ち上げることになる。
「みかづき」はクレセント(Crescent moon)と呼ばれるため、塾は月のような存在であり、そこからタイトルを取ったのではないかと推測する。
主な登場人物
大島吾郎 小学校の用務員を経て、学習塾教師・経営者に。
大島千明(旧姓・赤坂)学習塾教師・経営者。
大島蕗子 大島家の長女。吾郎と血のつながりはない。
蘭 大島家の次女。
菜々美 大島家の三女。
一郎 蕗子の息子。
赤坂頼子 千明の母。大島三姉妹の祖母。
感想
私自身、中学受験・高校受験・大学受験を経験したため塾は身近な存在だ。
しかし、経営者側の立場や昭和の塾業界に関しては全く知らなかったためとても新鮮だった。
塾経営を始めた当初は、「塾は受験競争を煽る受験屋だ」「塾は実のない教育界の徒花だ」という批判も受けながらひたひたと耐えて頑張り、塾を大きくする経営者としての大島吾郎の裁量が生き生きと描かれている。
その後、塾が高度経済成長の恩恵を受け大きくなると、今のご時世に通じるお金を持った家庭が子どもを塾に通わせられるがお金を持っていない家庭の子どもは塾に行けないため、学力の差が開いてしまうことに頭を悩ませている。
「貧富の差が学力に直結するのはいかがなものなのか」
「子どもたちが平等に学ぶ機会を与えるべきなのではないか」
しかし、無料で塾を開いてしまうと経営的な面でも大変だが、お金を払って塾に通わせている親御さんの反感を買いかねない事態にもなる。
葛藤を抱く場面は今の塾業界に通じる部分があると思う。
私は、学力が負の連鎖を招く可能性があると感じている。
つまり、親が教育を十分に受けられていなかったら子どもにも教育を受けさせる概念がなく子どもも同じ道をたどってしまう可能性が高いということである。
学力が足りないと、学歴・就職・収入などあらゆる面で格差が広がり得る。
その負の連鎖を食い止めるための対策をしていかなければ、これからの未来を担う子どもたちに平等な教育を提供する機会を得ることが重要になってくるだろう。
教育は一番効率の良い投資であるとも言えるのだ。
今こそ教育に出資するべきである。
綺麗事はいくらでも言えるが、通信教育の充実さに伴って安価で質のいい教育を提供できるようになった。
実際に、教育を受けるハードルは下がったと感じている。
しかしながら、「教育に対する情報量の不足さ・子どもに教育を受けさせようとする意思のなさ」が問題であると考えている。
厚生労働省が行った調査によると、2016年の子ども(17歳以下)の貧困率は13.9%となっています。およそ100世帯中に14世帯の子どもが貧困状態にあるという結果が発表された。
原因に挙げられるのは、ひとり親家庭の増加、国や自治体の対策の遅れなどである。
ひとり親家庭では金銭的な面だけに限らず、子どもに割ける時間も限られている。
いかに、親が情報を集めて子どもに教育をつけさせようとするかに学力は大きく変わってくると思う。
私自身、そのようなひとり親家庭や貧困層、また不登校などの教育に携わる問題に寄り添っていければなと想い巡らせている。