バイオロギングって何それ、バイキングじゃないの?〜「ペンギンが教えてくれた物理のはなし」渡辺佑基〜
今回は、物理の謎めいた話をバイオロギングの世界から深掘りしていこうと思う。
しかし、この本を読むまでバイオロギングという言葉すら聞いたことがなかったものの…
「ペンギンが教えてくれた物理のはなし」を学校の国語の先生がオススメにあげていたため、読んでみようと思ったのがこの本と出会ったきっかけだった。
(著者は理系で大学受験をしたものの生物選択で普通に生物の方が断然得意です。物理の知識は基礎段階で脱落いたしました。)
「ペンギンが教えてくれた物理のはなし」渡辺佑基(著)
第1章から第4章まではバイオロギングにより研究した動物の生態や研究の苦悩などが占めている。
バイオロギングとは…
BioLogを組み合わせた造語であり、動物に装着して人間ではなく動物自身がデータを集める事の出来る記録計のことである。 バイオロギングは元々ペンギンがどのように海に潜って餌を取っているかを観察するために作られたもの。
バイオロギングによって集められたデータによって、どのように自然環境で様々な動物が適応しているかをわかりやすく説明されている。
例えば、マグロは時速80kmで泳ぐとひと昔前の本では記載されているものの、
実際にバイオロギングによりマグロに記録計を取り付けたデータによると平均して10km前後でしか泳いでいない。
確かに瞬間の速度だと平均の3〜4倍のデータが得られたが、それでも時速80kmという数字はどこにも出てこない。
海の動物は水の中に生息しており、陸上の動物よりも水の抵抗を受けやすいため、泳ぐスピードはチーターの時速90km前後よりかは遥かに衰える。
また筆者は、バイオロギングの研究に明け暮れていた。
実際に動物に小型カメラを取り付けて回収するバイオロギング。
自然との戦いだからこそトラブルだけらだが、それでもめげずに研究に突き進む筆者の直向きさも書かれている。
第5章ではいよいよ物理チックなお話になる。
実際にバイオロギングにより得られたデータでいかに効率よく鳥は飛んでいるのか、海の中の動物はいかに効率よく泳いでいるのかなどを数字で示しているのだ。
少し物理基礎の内容(等加速度運動・エネルギー効率の計算etc.)も登場してきているが、そこまで忘れていたり知らなくても基礎的なレベルまで下げてくれているので、分かりやすい。
翼の生み出す揚力は「(空気の密度)×(翼の面積)×(速度)の二乗」
自然界の鳥たちにとって飛行速度を遅く出来ることは獲物を見つけやすかったり上昇気流に乗りやすかったりするメリットが大きい。
そうするには、翼の面積を広くすることで同じ揚力でも速度が遅くなる。
また、逆に翼の面積を狭くすると速度は速くなるため、獲物を追うときや急降下する時には翼を縮めるのだ。
自然界の鳥たちはその物理の内容が体感して分かっているのだ。
このように、この本は物理の話によって動物がいかに効率よくエネルギーを消費しているのかが改めて実感できるきっかけになっている。
感想
今までバイオロギングとは何かすらもさっぱり分からず、
すぐに食べることを想像してしまう食い意地の張った人間なのでタイトル通り「バイキング?」かとも思ってたが…
今まで実際に動物の生態を全て追えなかったため、観察できる「断片的な生態」をつなぎ合わせるしかなかったことでも、
バイオロギングにより「総括的な生態」を観察できるようになったため、今まで分からなかったことも発見されており、とても希望のある研究だと感じた。
しかしながら、動物の生態は摩訶不思議である。
まだまだ、動物の生態は全て解明された訳ではない。
動物は自然の環境の中でそれぞれ適応(適応放散・収束進化etc.)してきた。
そのことを解明することで自然の方程式に照らし合わせることで、私たちの生活に応用できるようなこともたくさんあるだろう。
例えば、「ヤモリの足」の原理を応用した「粘着テープ」
細い突起がたくさんあることで壁とファンデルワールス力という弱い分子間力が働くことで粘着するという仕組みである。
このヤモリの足を参考にすると、強度はとても強いものの簡単に剥がすことが出来るという優れものの粘着テープが開発された。
(ヤモリの足が永遠と壁にくっついてしまって離れなかったら、歩けないですもんね)
足の裏に細かな毛が1平方メートル当たり10万~100万本の密度で密生しており、さらに先端が100~1000本程度に分岐した構造を持つことが分かった。
先端の分岐した毛の密度は、同10億本以上。
この細かな毛の1本1本が、対象物に極めて近い距離まで接近するため、原子や分子間に働くファンデルワールス力によって接着する。
このように、生物や植物などの持つ構造や仕組み、形状などを工業製品に応用しようという生物模倣技術(バイオミメティクス)の研究や製品展開が急速に盛り上がっている。
しかし、私はその根底には生物を観察するバイオロギングの力も必要になってくると思っている。
私たちの生活をより豊かにするのにバイオロギングがひと役買う時代がやってくるだろう